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【なずな】 堀江敏幸

なずななずな
(2011/05/02)
堀江 敏幸

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上質のスピリッツを飲る時みたいに、ちびり、ちびり。舐めるようにして味わいたい。
日常を続ける間に滲み出した灰汁を、丁寧に、丁寧に、掬い取ったかのような、柔らかで、穏やかな文体。

純文学とはこのような小説を指す言葉だと思う。極上の小説である。
旨みのたっぷり備わった、愛すべき物語でもある。本来であるなら、主人公は語り手である菱山なんだろうが、

彼自身も認めているように、赤ん坊のなずなが菱山の所に、よんどころない理由で預けられてからの、
菱山の周辺にいる人々との日々が、この小説の中核をなしていると言っても、決して過言ではないだろう。

いや、更に言及するのならば、物言わぬ、生後2ヶ月過ぎの赤ん坊なずなこそ、全体を通じ、
主人公的な存在だと確定する事が可能だろう。小さな地方都市の、これまた小さな地方新聞の記者をしている、

菱山の関わる人たちが皆、人間味豊かで、魅力的なのも、なずなを育てる菱山にとって、
心の栄養剤となるのに力添えをする役割を果たしていると思う。普段は飄々として、

頻繁に酔っぱらっているが、腕は確かで患者の子供らから慕われている小児科医、ジンゴロ先生の人物造詣、
時々語る含蓄のある言葉が素晴らしく良い。『世の中はなんでも悪と善に分けたがる』

『白黒半々くらいが、ちょうどいいんだ。』菱山の住み暮らすマンションの、
一階に並んでいる数軒の店舗のひとつ、《美津保》のママについての記述も、

その人となりが絶妙に伝わって来る。『新聞記者の取材ってどうなのかわからないけど、
あたしに言わせれば、誰かと誰かを結ぶ距離って、まっすぐなのが最短なわけじゃないのよ』どうであろうか?

日常から当たり前過ぎて、ついつい見過ごされたり、聞き流されたりする、何気ないけれど、
人が、生きていく上で大切にしたい何かを、作者堀江敏幸さんは、徹頭徹尾、真摯な姿勢で書いている。

純文学、何とも素敵ではないか!?。なずなの小さな生命。慈しむとは、こういう心の働きを指すのだろうな、
と感じる。なずなが来てから私の身に起きた大きな変化のひとつは、

周りがそれまでとちがった顔を見せるようになったことだと、語り手菱山は実感している。
『人が人と接するときは、知り合ってからの時間や関係の深い浅いだけではない、タイミングというものがあるのだ。』

『間近にいる人間と、心から真っ直ぐに言葉を交わし、「いま」を見定める、その繰り返し以外にないのだ。
人恋しいときは、誰と話をしても楽しいように。そして、まだ言葉も知らない赤ん坊に話しかけているだけで、幸せになれるように。』

読むと、穏やかで幸せな気持ちになれる事受け合いです。
単純に素敵な小説なので大オススメを致します!!。

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