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【赤朽葉家の伝説】 桜庭一樹

赤朽葉家の伝説 (創元推理文庫)赤朽葉家の伝説 (創元推理文庫)
(2010/09/18)
桜庭 一樹

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頁を繰る、とそこには『赤朽葉万葉(まんよう)が空を飛ぶ男を見たのは、十歳になったある夏のことだった』
冒頭の一文が、ピタリ決まっている。そういった作品に駄作なし!と信じている僕にとっては、

これはただ事ならぬ傑作であるに違いないぞとの予感が全身を駆け巡りました。
女三代の孫娘である赤朽葉瞳子(とうこ)の語りによって、山陰地方の小さな山村、紅緑(べにみどり)村にて、

戦後日本を必死に生き、死んで行った祖母万葉、母毛毬(けまり)の人生と
伝説が鮮やかに描き出されて行きます。【第一部・最後の神話の時代・一九五三年~一九七五年】

万葉が山陰地方の、更に辺境に住み暮らすと伝えられている【山の人】達から
紅緑村に置き去りにされた事から伝説は始まります。村の若夫婦によって拾われ育てられた

十歳前後からの生活。それはタイトルにも在る様に、戦後の日本が、それまではまだ辛うじて残って居た、
前近代的な風習や土着思想を凪ぎ払い、急激に画一化する中で、日本人としては、

何か大切な物を無意識的に捨て去った、大変な時代だったんだなぁ、と追体験する様な不思議な感覚に
震えたです。万葉の、と言うか、物語の舞台となる紅緑村は、だんだんに区切られていて、

下から見上げると、天上界に位置している様な赤朽葉本家。そして、その力を誇示するかの様に聳え立つ製鉄所。
村では【上の赤】と呼ばれ畏れと親しみのない混ぜになった想いで見られています。

反対に戦後に勃興した造船成金【下の黒】こと、黒菱家、ここの長女である、【出目金】黒菱みどり、
普段はいじめっ子で子分を侍らせている彼女は、万葉とは常日頃から、『いじめっ子』『拾われっ子』と、

言い争っていますが、本音の深い部分で互いを認めあう関係になって行きます。
みどりは終戦から十年近くを経た今もシベリヤにて抑留中の美しい兄じゃの帰還を待ち侘びて、

ただ一人泣きじゃくっています。この兄じゃを巡っての万葉の【予見】と、痛ましい事件、結果として、
みどりの流行歌に乗せた裸の恋心の告白には、フィクションを超えた圧倒的なリアリズムを感じました。

さて、その後、赤朽葉の【恵比寿さま】と崇められている大奥さま、タツに見初められた万葉は赤朽葉の
【千里眼奥様】としての人生を過ごし、次の世代の毛毬が激烈に登場してくる

【第二部・巨と虚の時代一九七九年~一九九八年】(彼女の短い生涯に関してはスピンオフ作品が出ているので、
そこで触れます)、赤朽葉の伝説や謎が孫娘瞳子の手によって丹念に解き明かされていく

【第三部・殺人者・二〇〇〇年~未来】へ綿々と継承されて行くのですが、
最終的な謎が解けた時に瞳子の胸に去来した『せかいは、そう、すこしでも美しくなければ。』という想いに、

この本が読めて心から良かったと思いました。是非機会を見つけて読んで頂きたい、大オススメの一冊です。


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