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【圏外へ】 吉田篤弘

圏外へ圏外へ
(2009/09/16)
吉田 篤弘

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何しろ、とてつもなく素晴らしい物語なのである。面白い事、比類なしなのである。
これ程までに面白い小説は、1人でも多くの読者に読まれて然るべきだと考えるのである。

「で、ある」からして、俄然、「のである」にも、力が入ろうと言うものである。
ダアレも知らない突き当たり、<内藤写真機店>、それでも、いつ何時、

誰かが壊れた写真機を持ち込むかも知れず、夜の夜中でも店を閉めたりしない。
中古というよりチュウブル・レンズと読ませたくなる逸品が持ち込まれるやも判らないからである。

写真機店の主の名は、キミとアキ。両性具有の親が、両性具有の子を産んだ。
が、今キミは、日々酒ばかりのみ、娘にして息子のアキが二人暮らしの生活を賄うべく

チュウブル写真機店を営んでいるのだ。と、ここまでを設定した所で、小説の語り手は、
自分が、カタリテである事に悩み出し、迂闊にも、

作品の中に作者が顔を覗かせ立ち止まってしまうのだ…。
話の「序の口」を探し始めたは良いものの、早くもカタリを放棄してしまう、カタリテ。

そればかりか、語り手=作家である所の日々の葛藤を、娘の音や、

将棋の仲間ツブラダ君相手に、『何であれ僕はスラスラ書こうと思ったことは一度もなかった。
そもそも自分の中にスラスラしていないものがあって、どうにもソイツがもどかしくて、

ソイツを叩き出してしまいたかったんです』だらり喋りながら日々過ごしている。
ところが、それでも尚、この作品が凄いのは、作家の発想が柔軟で

「書いてるつもりが書かれていた」のが当の自分なのかも、と考えられる点だ。
更に娘も、「わたしはいつでも、自分はどこかの誰かが書いていると子供の時から思ってた。

そう考えた方が楽しいし」あっけらかんとしているし、円田くんにしても
「最後に福を迎えたい。そうですよね。だからたしかに書き始めの入り口は

笑う門じゃないと駄目なんです」かなりの楽天的な思考の持ち主なのだ。
しかし、こんなに悠長な考え方、やり方で、設定されたままの登場人物は

溜まった物じゃないんでしょうね…。カタリテに警告に来る主要人物キミ。
「次のセリフも貰えぬままココでこうして路地に閉じ込められて何ひとつ進展しない。

カタリテ、これはどういうことだ。お前さんがナントカしてくれないと、
われわれはココでこうして途方にくれるばかり。早くこの先を書いてくれないと―」「ないと」

「こっちからそっちへ出てゆく」次第、次第に薄れゆくカタリテの意識から脱出するキミ…。
空気、天気、空間、時間、人物、と呼ばれる全ての制約の「圏外」へと、易々と解放され、

より変幻自在に語られる物語。唯一の共通点は円田くんや音ちゃんも、
自由に飛翔を続けるキミも、そしてカタリテにも、それぞれの「役割」と「詩」がある点と、

各自「南」を目指していること。果たして「南」には何があるというのか!?
先がまるで読めない展開と、各章に名付けられた余りにも美しい詩的なタイトル

(「夕方の飛行の果てに電線から逆さにぶら下がって」や、
「観覧車に乗って遠くの景色を見渡すように」)に惹き込まれます。

登場する各人物の言葉も詩的で『走り書きはいかん。ついでに殴り書きもいかんぞ。
人を殴るようなヤツは人間の屑だ。小走りで行くのだ。小走りで書き続けるのだ』とか、

『「聴」の一字には、ひとつの耳と十四の心が隠されている。十四の心である。
俺は幸いにもそいつを手にした。持っている。所持している。所有している。十四である。

この数を不吉なる十三を乗り越えた次のナンバーとして記憶し、
俺は自分の心の臓を切り刻んで、十四のハートに分離させた。』などの言葉を目にした時に、

作者・吉田篤弘さんは文字通り、全身と全霊で体感した言葉を、
肚の底から満足出来るようになるまで吟味している人なんだろうと思いました。

カタリテからヨミテに極自然に発せられた質問について考えるのも、読み応えがありました。
特に、『遠くで泣いている仲間のためにいまここで』に書かれてある神話的な世界は、

1人でも多くの人に読んで貰いたいって感じました。500ページ超の、厚みある小説ですけれど、
これぞ小説!という醍醐味を感じられますし、自信を持ってオススメいたします!!

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