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【生きる歓び】 保坂和志 ~明日からも生きていこう、そう静かに思えてくる小説~

生きる歓び (中公文庫)生きる歓び (中公文庫)
(2009/05)
保坂 和志

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飼っていた牡猫を五歳半で亡くしてしまった。
まだ若いしこれからもずっと元気で仲良く暮らしてくれるものだ、とばかり信じていた甘い考えは、

目の前で息を引き取って逝こうとしている愛猫に何も出来なかったことで、あっさり打ち崩された。
ペットロスの悲しみは想像以上に深く重く、毎朝起きると、姿を探してしまい、

とても現実として受け止められはしなかった。保坂さんの小説に出会ったのは丁度そんな時で、
ページを捲るに連れて、痛みが和らぎ、何か温かく、慈愛に溢れたエネルギーに、

全身が包まれて行くのを感じた。読書を通じ、自分という存在をまるごと救われるという、
貴重な体験をさせて貰ったと、身体の芯から感謝している。

これ程までに、胸の奥に響くのも、保坂和志と言う作家が、日々を暮らし生きる中で巻き起こる出来事や、
それに付随して浮かび上がってくる物思いを、決しておろそかにせず、1つ、1つ、

丁寧に受け止め、考える人だからであると思う。彼女のお母さんのお墓参りに行く途中に見つけた、
道の真ん中にうずくまって熟睡している子猫。母猫を探すも見つからない、ばかりか、

子猫の頭上では、カラスが桜の枝に一羽、自分の「餌」と位置づけたらしい子猫を食べるために、
人間がいなくなるのを待っているという有り様で。おまけに、前日の雨のせいなのか、

子猫は風邪引きで、鼻がぐじゅぐじゅ、エサを嗅ぎ分けて食べる事さえ叶わない。
医者に行かず、放っておくと、確実に死んでしまうだろう。

俊巡の末、「お墓参りで出会ったのも何かの縁」だからと、連れて帰り、早速、
獣医師の診療を受けに行く。診断の結果、ウィルス性の風邪を引いているのに加えて、

「全盲」の可能性もあると言う。そんな、ある意味では相当に厄介な面のある
子猫の世話をする場面に於いても、保坂さんは『大げさに聞こえるとは思うが、

自分のことを何もせずに誰かのことだけをするというのは、実は一番充実する。
相手のためにずっといろいろな面倒をみる』と、ごく自然に発言する。

こうも確信に満ちた態度で、相手に惜しみなく愛を注ぐ。なかなか簡単には実行出来そうにないと思う。
更に、保坂さんは、強い意志を持ち、この目も開かない、匂いを嗅ぎ分ける能力もない子猫と慎重に、

慎重に相対していく。献身的な介護によって、少しずつ、少しずつ、
生命力を取り戻しす子猫。最初は全然食べ物にも反応しなかったのに、抗生物質を飲ませて、

結膜炎用点眼薬を射す内に、見違えるくらいの元気さで生きよう、生きようと、し始める。
生きている、生きられていることへの歓びを全身で発散している「花ちゃん」と名付けられた子猫。

その様子を見続けて、感動の余り、この小説に、感動したそのことをそのまま書こうと思った保坂さん。
生きる歓びについての考え方に、静かに深く感動したのでした。

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