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【仏果を得ず】 三浦しをん 〜いろはにほへとちりぬるを〜
仏果を得ず仏果を得ず
(2007/11)
三浦 しをん

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作品毎に文体から作風まで変えてくる驚異の作家三浦しをんさんが、
伝統芸能【文楽】の世界に挑んだ!と聞き、強い関心を持った本。なんでこうも上手に、

ヘンテコな人ばかり生み出せるのだろう!主人公健太夫(たけるたゆう)の、相三味線、
つまりはパートナーとして選ばれた三味線の兎一郎兄さん。兎にも角にも、珍妙な性格の男なのである。

何せ健とは十年、ほとんど毎日顔を合わせているのに、挨拶以外は一度として話した事がないのだ。
いつもふらふらと楽屋からいなくなってしまい楽屋の食堂で、

五つぐらい並べたプリンをうまそうに食べているのだから。妙な噂も、枚挙にいとまがないし…。
それに頑固さも天下一品で三味線や太夫の長老連が口を酸っぱくして、健大夫と組む事を促しても、

自分が納得するまで、何編でも、真っ向から堂々と反論してみせるだけあって、巧さだけでなく、
演目への完璧な解釈に基づいた演奏力をも、持ち合わせた凄腕の奏者なのである。それに付け加えて、

本番まで一月を切っても、本番とは丸で関係ない、基礎中の基礎の演目の解釈を巡って、
健の認識を確かめては、逐一その作品を稽古させる。怒髪天を衝いたのが、

健の師匠かつ文楽の人間国宝である笹本銀太夫。齢八十を超えて、益々芸の道を真っ直ぐに歩いている所か、
「遊びは芸の肥やしじゃ」と広言して憚らない。

そんな奔放な師匠の思惑を外した兎一郎がした事を我慢出来る訳がない!健の頭を扇子で叩きに叩きまくる。
理由は「お前は俺の弟子だからや!」 だそうである。世間並の常識なんてものは通用しない、

それが芸の世界である。主役の健にしても一風変わっている。東京から文楽やりたさに、
大阪まで出て来てから十年以上、でもまだぺーぺーの身分なので、

友人からラブ・ホテルの一室を友情特価の激安家賃で借り、
いくら義太夫を唸っても大丈夫な環境下に住み暮らしている。

けれどもこの事は、健がボランティア活動として続けている小学校での義太夫教室で、
一番弟子を自認してくれている、ミラちゃんには絶対の秘密にしてある。

そんな芸道バカ一代な健大夫だからか、兎一郎兄さんも次第に心を開き始め、
自分の芸論を話し出すまでになる。その際語られる、

「ならず者」と「色気」についての考察は一読の価値ありです。なるほどなぁ、と思いました。
しかし、健の「色」となるオカダマチは大夫の目の前に、唐突に道を開いて、

あれよあれよと言う間に、健は飲み込まれてしまいます。
が、カタカナだったマチさんとの間柄が真智さんに変わる頃、

健の大夫としての芸も飛躍的に向上していきます。文楽の有名な演目や内容も知る事が出来るし、
自分なりの語りや解釈を探して奮闘する健の姿から、読んでいると直接生で文楽を聴いてみたくなりました。

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テーマ : オススメ本
ジャンル : 小説・文学

【一人二役】 河本準一 〜オトンのようなオカンの背中〜
一人二役一人二役
(2007/04)
河本 準一

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次長課長の河本さんの書いた本である。彼の芸の様に人間味溢れる本である。
オカン初め人情味溢れる人たちに育てられた男の自伝的小説である。

飛び切りの温かさに満ちた小説なのである。9歳の時、順風満帆だった河本家に、突然吹き荒れた大嵐。
真面目さだけを取り柄に生きてきた、河本家の大黒柱オトンが何をどう誤ったのか、

いきなり隣家に住む「まゆみオバチャン」と激しく熱い、一生一度の恋に落ちてしまったのだ。
とは言え、それは河本の家族を捨てると言うこと。その日を境に、ボンボンだった準一は、

名古屋での何不自由ない生活から、一転、岡山県での貧乏生活を余儀なくされる。
オトンの分までもと、クリンクリンの超短髪にパンチパーマ姿、北島サブちゃんも驚く様な、

誰もがオッサンと見間違うような格好になっても、
女の細腕だけで準一少年を育て上げる覚悟を決めたのだろう。

それからは、形振り構わず、オカンとオトンを「一人二役」でやり切ってみせる、
強くて逞しいオカンになったのである。河本さんは得意の洒落っ気も交えた文体で書くので、

正直かなり笑えるんだけれど、オカンに暴力を振るう二番目のオトンの所からの真昼の逃亡劇は、
オトンの連れ子だった義理の弟を涙ながらに置き去りにすることを決めての決行だったのだから、

実際は笑い事ではなかっただろう。引っ越し先の地区でも、真っ先にイジメを受ける羽目になる準一少年。
このイジメを回避しようと入部したバレー部でも、最初はチビである為に、

顧問初め周囲からは笑われっぱなしの所を猛特訓により挽回し、遂に、中学を締めていた番長から認められ、
陰に隠れてイジメていた連中が、逆に番長からボコボコに焼きを入れられるまでに変化したのである。

そんな中でもオカンは朝五時に出勤、夕方に戻って来ると台所に立ちつつ酒を飲む。
「こいつをとりあえず食わせないかん」そう背中で語るオカンからはオヤジの凄みも合わさり始め、

ジーパンにスニーカー、作業用のジャンパーが定番になっていったそうだ。
オトンの分も自分がしっかり面倒をみようという鉄の意思を感じジーンと来た。

更に、河本さん自身が自分のお笑いの要素は、実はオカンとの生活にあったんやないかと述べている。
普段からお笑いコンビのように“ボケとツッコミ"を繰り返し、

言葉のキャッチボールを楽しんでいるような節があったと言う。だからだろう、
高校卒業後の進路を吉本興業の NSCに決めた時も声は震えながらも、

「……やりゃあええ」と送り出してくれた。それがあるから、今の次長課長が存在する訳だ。
やはり、母子の絆は限りなく強い。次長課長が東京に出て売れた時に、河本さんがやった

「元父親と、その家族」をも含めた親戚全員集合での旅行、わだかまりをほどく場面では、
参加した誰もが無邪気にお互いの過ぎた時間を許しあっていて胸に熱く涙が、込み上げてきたのでした!!

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【人間失格】 太宰治 〜必死に生きようとした人間の結末は喜劇なのだろうか?〜
人間失格 (新潮文庫 (た-2-5))人間失格 (新潮文庫 (た-2-5))
(1952/10)
太宰 治

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遂に読んでしまった…。読者にそんな感情を沸かせる作品は古今東西を見渡しても、
それほど多くは存在しないのでは無いだろうか?更に思うに、世の中は【人間失格】が必要な人、

不必要な人とで、二分されるとも考えられるのでは、と言っても、決して過言でない様に考えられる。
はしがきからして徹底されている、観念的な他者否定の思い。三葉の写真に写った、

幼年期、青年期、中年期、それぞれの人相に対しての考察は全て葉蔵の内面から
滲み出た表情に異議を申し立てている。この不思議な小説の始まり方は一体、

読者に何を伝えようとしての物であるのだろうか?加えて、葉蔵の手記に出てくる重要な要素として、
「お道化」という概念が存在する。視得ない筈の世界に隠れているあれこれが、

易々と見えてしまう人間の必死の自己防御手段としての「道化」。
しかし、これも、見る人から見れば、軽々見破られてしまう。葉蔵本人もその事実は百も承知で、

一群の画家たちは、「人間という化け物」に傷めつけられ、おびやかされた揚句の果、
それを道化などでごまかさず見えたままの表現に努力し「お化けの絵」をかいてしまったのを知っているし、

将来の自分の仲間を、画家達の中に見出だしている。本当ならば道化など、
これっぽっちもしたくはなかったのであろうと思います。

しかし、弱虫な葉蔵は幸福にさえ傷つけられる事もある男なので、傷つけられないうちに、
早くお道化の煙幕を張って、「金の切れ目が縁の切れ目というのは、男に金がなくなると、

男は意気消沈してダメになり、破れかぶれになり男の方から女を振る」と、
出鱈目な放言を 繰り出す始末。けれどカフェの女ツネ子の方は、

人間としての営みに疲れ切っていたので、葉蔵に対して本気で「死」という言葉を口にする。
そんな切迫した状態にあっても、未だ何処かに「遊び」を潜ませ、

「死のう」という、実感も覚悟も持ち得てはいない葉蔵。けれど心中を図った入水自殺の末、
女だけが死亡し、まんまと葉蔵は生き残ってしまうのです。

それまでの葉蔵は世間知らずな、お金持ちのボンボンだったのに、事件後は実家からも、
見放され、辛うじて、兄たちの送ってくれる送金以外は、故郷とのつながりを全然、

断ち切られてしまいます。揚句、父親の太鼓持ちの様なことをしている男の家に居候しますが、
我慢しきれずに逃げ出してしまう有り様。そこから彼の世渡りの才能による放浪流転の日々が始まる訳ですが、

同時に世間と言う名の厄介な妖怪を相手に無限かつ無用の闘いを強いられる事をも意味していた訳です。
葉蔵は結局、悪友堀木にもただ、死にぞこないの、阿呆のばけものの、

謂わば「生ける屍」としか解してもらえず、彼の快楽のために、利用できるところだけは利用する、
それっきりの「交友」しか結んで貰えないのにも関わらず、付き合いを切る勇気は最後まで持てず仕舞いです。

それは葉蔵自身が、自分は昔から、人間の資格の無いみたいな子供だったのだと、
と思うより他に逃げ道のない生き方を選んで来たからなのでしょう。

そんな葉蔵にもっと残酷な出来事が起こります。なんと内縁の妻ヨシ子が出入りの編集者に、
ちょっと目を離した隙に、強姦されてしまうのです。自責の念にかられ、睡眠薬での自殺を図りますが、

またしても、生き延びてしまう葉蔵。罪悪感は膨らみ続け、罪悪のかたまりのようになるのですが、
自分を防ぎ止める手段を、何一つ持ち合わせちゃいないのです。

アルコール中毒から薬物依存症まで堕ちていき狂人、いや廃人という刻印を額に打たれるまでに、
堕ち切ってしまったのです。まさに、これで葉蔵は立派な「人間失格」と呼ぶに相応しい所に、

たどり着いたのです。最後に葉蔵が「廃人」は喜劇名詞のようであり、ただ、一さいは過ぎて行きます。
と呟いたのが妙に印象に残りました。あなたにとって葉蔵がどのように映るかは、

是非とも読んで確認されて欲しいです。

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【武士道シックスティーン】 誉田哲也 〜2人の女剣士の青春グラフィティ〜
武士道シックスティーン武士道シックスティーン
(2007/07)
誉田 哲也

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これぞ青春!スカッとした気分になれます。
前々から色々な方々がブログにて絶賛されていたのを読んでいて、

『いつか読みたいな』と思っていた内の一冊。剣道を全く知らない僕の様な者にも、
一つずつキチンと、解説が為されているので、頭の中が混乱することもなく、

自然体で物語と向き合えるからとてもスムーズに、感情移入しやすくて良いんです。
場面毎ハラハラドキドキ、手に汗を掻きながら応援出来るのが、もう実に心地良くて!!

主人公は個性が対照的な2人。全中準優勝を成し遂げた、女性兵法者磯山香織。
けれども、彼女自身は自分の敗けを認めてはおらず、モヤモヤした想いを断ち切ろうと、

市の小さな剣道大会に参加する。そこで偶然と言うか、必然と言うか、後に好敵手となる、
甲本、いや西荻早苗と対戦し不覚にも面を打ち込まれてしまう。新免武蔵を心の師と仰ぎ、

斬るか斬られるかを自分の進む剣の道だと決めて突き進む香織は、早速、相手を見つけ出し、
雪辱を果たさん!と一念発起、敵国(早苗という敵の居る高校)に足を踏み入れる決心をする。

香織の言葉遣いや意識が、まるで侍であるのには、家庭事情、家族事情も関わってくるのだが、
ここまで一心不乱に己の剣の道だけに没頭出来る香織は羨ましくも思える。対して、

香織の好敵手として成長する早苗は、日舞から剣道へ転向した変わり種で
性格もおっとりした大和撫子なタイプ。剣に対しても、勝ち負けだけではない己の

精神鍛練との意識を持って取り組んでいる。
その為、強い相手から競り合いの末に一本奪ったかと思えば、

それほどでもない相手にアッサリ負けてしまったりする。正直、強いのか弱いのか、
計りかねる早苗の剣道に事あるごとに食って掛かる香織。

「あたしが、本気で負けたと思ったお前が、実は弱かったなんて……
あたし、そんなふうには、思いたくないんだ……」と本音を吐露してまで早苗に奮起を促します。

後、高校生ならではな不器用な友情の姿が強く印象に残ったのが、
香織が早苗に自分を呼び捨てで呼べよ!と命令口調で告げる所。自分の好敵手として、

早苗を見ているだけに何故だか苛ついている香織。いくらなんでも呼び捨てでは呼び難い早苗。
思春期独特の、照れや意地の張り方がなんとも面白いです。そんな風に、

不思議な友情関係を保ちながら、お互いに刺激を与え合う2人。曰く、早苗の
「お気楽不動心」剣道に反発を覚えつつも、彼女の「勝ち負けには拘らない。好きだからやる」姿勢に、

今まで自分が知らずにいた、まったく異なる種類の剣道が存在するって事を意識せざるを得なくなる。
その意識は次第に大きさを増していき、「私は何故剣の道に 生きようとしているのか?

勝ったからって、その先に何があるっていうのか?」突然の大スランプに陥ったりもする。
それでも結果的には友情のパワーで、見事に復活して来れる辺り、

剣道という武道の持つ底知れない魅力を感じました。
武道とは、決して独りぽっちでやるものではないんだなぁ、という点にも感動を覚えました…。

剣術が好き、兵法が好き、剣道が好き―――。
好敵手同士であると共に友達同士でもあるから辿り着いた境地。

彼女達のライバル関係は、更に進化しつつ、【武士道セブンティーン】へと続いて行きます。
それはまさしく、装丁の赤と白の栞の様に!!この小気味良さをあなたにも。大お薦め致します!

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ジーナフウガのプロフィール

ジーナフウガ

Author:ジーナフウガ
ジーナ(絵描き)とフウガ(詩人)の夫婦2人です。イラスト・詩・書評・映画や音楽・猫の事など感動したことを書き綴っています。コメント頂けると嬉しいです。(過去日記にもお気軽にどうぞ♪)

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≪本名・藤長聖子(旧姓)≫≪O型・おひつじ座≫≪1979・3・26生まれ≫≪持病・バセドウ氏病≫≪ジーナの名前の由来・ふじながのじなを取ってジーナ≫≪なかはらとまと、と言う筆名でも書いてます≫

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作家:よしもとばなな・吉本隆明・田口ランディ・西原理恵子・角田光代・山崎ナオコーラ 音楽:THE BLUE HEARTS・大貫妙子・松任谷由実・池田綾子・S.E.N.S 画家:デナリ・ダリ・シャガール・バスキア 映画:アマデウス・サイダーハウス・ルール・ハリーとトント・めがね・ビリー・ワイルダー 落語:立川談春

【フウガのプロフィール】

≪本名・古庄弓津規(ゆつき)≫≪A型・魚座≫≪1972・3・8生まれ・36歳≫≪神奈川県生まれ≫≪フウガの名前の由来・ふじながのふがを取ってみたところ、語感があんまり!だったのでうを付けて語感の良いフウガにしました。≫≪榎風雅の筆名でも書いてます≫

≪フウガの好きな人たち↓≫

作家:中島らも・池波正太郎・浅田次郎・小路幸也・高橋源一郎・川上弘美・森絵都 文学者:石川啄木・種田山頭火・住宅顕信・井伏鱒二・山之口獏 アーティスト:岡本太郎・ヴィンセント・ファン・ゴッホ クリエーター:糸井重里・茂木健一郎・佐藤雅彦 音楽:仲井戸麗市・泉谷しげる・SION・中島みゆき 落語:柳家小三冶・笑福亭鶴瓶 詩人:中原中也

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